
アメリカでの同時テロ多発事件は、タイをはじめ東南アジアの国々にも大きな影響を与えています。すでに新聞やテレビでアジアの国々のリアクションも紹介されていますが、もっとローカルな視点で話題を拾ってみました。テロの犠牲者の立場からすれば、ちょっと不謹慎な表現があるかもしれませんが、犠牲者に対する追悼とテロ行為否定が大前提にあることを事前に申し上げておきます。
「豚の油爆弾」
アメリカがタリバン政権に対する報復攻撃を世界に同調を求めるさなか、あるタイの上院議員がブッシュ大統領にメールをしたためました。“報復にはミサイルも核兵器も必要なし。豚の油の爆弾で十分である。人命を大切にして欲しい…”というような内容です。メールを書いたものの送信を戸惑っているうちに第三者に見られてしまい問題になりました。くだんの議員にしてみれば、血で血をあらう報復の応酬を避けて欲しいという気持ちだったのでしょうが、“豚の油”という表現がこの議員の致命的ミスでした。報復はテロに対してであって、イスラム教に対してではないのです。結局、他の議員たちの糾弾があって、この上院議員は辞職に追い込まれました。仏教国として知られるタイですが、南部を中心にイスラム教徒も多くいます。スリン前外相なども南部出身モスリムです。ちなみにスリン前外相は、タリバンによるバーミアン仏教遺跡破壊に対して先頭に立って抗議しています。テロ糾弾が、いつのまにかモスリム批難にすりかわっていることにタイ・モスリムは懸念を感じています。対テロが、対モスリムや対アラブに転嫁してゆく雰囲気は危険です。
「友人の冤罪」
同時テロ事件の起こった9月11日、私はスリランカのテレビ局の仕事でフィリピンにいました。9月14日に米軍基地撤退十周年記念集会がアメリカ大使館前で行われ、今回のテロ事件のフィリピンの人たちの考えを知るために友人のインド人ジャーナリストとともに取材にいきました。集会は“テロは否定するが、アメリカの軍国主義も否定する”という趣旨で平穏に行われました。そのとき友人のインド人ジャーナリストが警察の尋問を受けて連行されそうになりました。彼の風貌は髭面でアラブ人のようです。すでに、アラブ人=テロリストというステロタイプ化が始まっています。彼が警察の尋問を受ける姿を地元のTV局や新聞社が撮影取材していたので、夜のTVニュースを見てみました。ニュースでは、米軍基地撤退十周年と友人の尋問の話は全く切り離されて紹介されていました。
“テロ事件で厳戒態勢の米大使館。不審者を尋問!”
テポドン事件後に在日朝鮮人学生たちが謂われもないイジメを受けたように、彼は道を歩いていても“ビンラディン!”と罵声を浴びせられたりして散々な目に遭っています。空港ではチェックインのときにパスポート・コピーまで取られる始末です。行動を共にしていた私の方は警察の尋問もパスポート・コピーも無縁です。私のパスポートにはアフガニスタンの渡航暦も記録されているのですが…。
「ビンラディン夫人」
フィリピンはオサマ・ビンラディンと無関係ではありません。
ミンダナオを拠点にするモスリム武装ゲリラ“アブサヤフ”はアフガニスタンの軍事教練キャンプで訓練をしています。そしてビンラディンから武器の供給も受けています。アブサヤフといえば、欧米人旅行者たちの拉致誘拐事件で一躍有名になりました。パラワン島リゾートでの誘拐事件は継続中ですし、海を越えてマレーシア・ボルネオ島リゾートで起こした誘拐事件は連日CNNやBBCで報道されました。そうしたリゾートにたまたま日本人がいなかっただけで、日本人がアブサヤフに誘拐された可能性は十分あります。
中国から支援を受けていた共産主義ゲリラNPA(新人民軍)などが政権に投降し弱体化してゆくなかで、アブサヤフやモロ解放戦線などのモスリム・ゲリラはどんどん勢力を伸ばしています。NPAが中国の援助を失って経済基盤をなくし弱体化したことでわかるように、これといった収入源のないゲリラが海外からの援助なしに存続するのは無理です。タイ周辺では、麻薬、木材、宝石といった地下の財源が反政府ゲリラの活動を支えているケースもあります。しかしフィリピンでは海外からの資金援助なしには勢力の維持は難しい。つまりフィリピンのモスリム・ゲリラはビンラディンなどのムスリム同胞の資金に頼っています。ムスリム同胞からのジハード(聖戦)呼びかけがあれば、ともに立ち上がる立場にあるわけです。テロに対するアメリカの報復が、対モスリムに転嫁すると中東だけでなくフィリピン、インドネシアなどにも飛び火する可能性があります。
アメリカのテロ事件直後に、フィリピンの新聞はアブサヤフのリーダーたちの指名手配書を写真入りで一面に載せ始めました。その記事の中に、オサマ・ビンラディン夫人のことが書かれていました。ビンラディン夫人はミンダナオのアブサヤフとともにいる。なぜ?どんなふうに夫と連絡をとっているのだろうか?ビンラディン夫人に会いたい。しかし、誘拐され高額な身代金を要求されるのを覚悟の上に、夫人に会うだけの度胸と財力は私にはありません。そして、このタイミングで夫人に会うのは、ちょっと下世話なので二の足を踏んでいます。
「連動する世界」
先日ベトナムのラジオ局VOV(ボイス・オブ・ベトナム)のバンコク支局長と会食をしました。インドシナ戦争時代から現在までもCIA(アメリカ中央情報局)のベトナムでの情報操作およびテロ扇動は目にあまるものがある、といいます。先般の在タイ・ベトナム大使館爆破未遂事件などもCIAとの関連が濃厚です。こうした裏情報を聞くにつけ、今回のテロ事件についてのアメリカの一方的な報道を鵜呑みにするわけにはいかないな、と思うわけです。
このベトナム人記者は、米越国交回復がようやく軌道にのりアメリカの投資が伸びようというときの事件で、経済の成り行きを心配しています。インドネシアはメガワティ大統領が事件後すぐにアメリカ訪問し全面的な協力を約束する反面、国内ではアメリカのアフガン攻撃が始まればイスラム勢力が反米暴動を起こす勢いです。タイでは、テロに巻き込まれる危険のあるアメリカへの旅行をタイへ振り替えさせようと旅行者誘致キャンペーンを始めました。
イスラム教VSキリスト教、アメリカ人VSアラブ人というような対極構図で紛争を煽る情報が蔓延するなかで、多極な視点の情報を集めたいと思っています。