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スパイシーたいらんど
 

「ベトナム・カマウ岬のエ ビ」  2005年6月 

 

 日本がポツダム宣言を受託 して60年が経ちました。

アメリカ軍がベトナムから撤退して30年が経ちました。

 世界各地では今も連綿と戦 争が続き、人々は戦火に慄いて暮らしています。そして一方で戦争を糧としている人や利益に結びつけようとしている国があります。

 4月にインドシナ戦争枯葉 剤関連の取材でベトナムに行きました。

5月に元日本兵騒ぎでフィリピン・ミンダナオ島に行きました。

30年経っても、60年経っても、戦争の傷というものは簡単に癒えるものではありま せん。ベトナムでもフィリピンでも、そのことを再認識しました。そして、戦争は愚かなことと承知しながら繰り返してしまう人類のサガに呆れつつ、そうした 潮流に自分も呑みこまれんとしていることの無力感と焦燥感に苛まれています。

 

さて、戦争の話ではありませんが、愚かなことと承知しながら繰り返す人類のサガの一 例をベトナムから御紹介します。

日本の食卓に並ぶエビの多くは東南アジアから輸入されていることは、みなさん御存知 だと思います。

十数年前、タイの沿岸部に行けばどこもかしこも水田を養殖場に換えて、エビの出荷に 大わらわでした。大生産地スラタニーなどではベンツやBMWといった金ぴかの高級車が数台も車庫に並びプライベート・プールや広い庭のついたエビ御殿が、 衆目を集めました。

いまスラタニーに行けば、放棄されて無残な姿を晒している養殖場と売家の看板が掛か かったエビ御殿で、昔日のエビ景気を偲ぶしかありません。

 

なぜ、こんなことになったのでしょう。

自然のエビが育つマングローブの森は、水中酸素量を調節する機能を持ち、プランクト ンが豊富です。またエビは、マングローブの樹に排泄物や屍のかたちで栄養を供給して、相互依存の生態系をつくっています。養殖場の人工的な飼育下では、高 栄養の飼料のおかげで養殖当初こそ早く大きく成長するのですが、抵抗力がなくすぐに病気になってしまいます。病気が伝染し始めると抗生物質を飼料に混ぜて 投与したりするのですが、その残留値が基準を超えると欧米や日本は輸入を受けつけません。輸出できない二束三文のエビを育てても採算はとれませんから経営 者は病気が蔓延したエビ養殖場を放棄して、次々と新しい場所に養殖場を移動させました。始末におえないのは、水田をエビ養殖場に換えたら水質や水底を変え てしまうので、水田に戻すことが容易ではないということです。また水田を養殖場に換えるだけでなく、マングローブの森を切り開いて養殖場を造成することも 広範囲で行われました。

スラタニーなどの荒涼とした広大なエビ養殖場跡は、後先を考えずに儲け優先で開発し た愚かな象徴です。

 

同じ東南アジアの国ですからエビ養殖に関して後発国のベトナムはタイの失敗を知って いるはずです。その反省から学んで、ベトナムのエビ養殖は生態系の自然な連鎖を考慮したものなのだろうと思っていました。ところが、十数年前のスラタニー で見た同じことを今、繰り返しています。

サイゴンからベトナム南端のカマウへ向かうロシア製飛行機ツボルグの窓から見た光景 に愕然としました。最初こそ枯葉剤で枯らされたれた森は30年経ってもまだ再生しないのだなと考えていたのですが、よくよく見ると延々と続くエビ養殖場で はありませんか。

ベトナム戦争当事、カマウ岬近辺の深いマングローブ・ジャングルに隠れて作戦展開を する南ベトナム解放戦線を一掃するために米軍は無差別に枯葉剤を撒いたのですが、そのときのマングローブの消失に匹敵する養殖場造成のためのマングローブ の刈り払われ方です。

ベトナムでも、抵抗力のない養殖エビは伝染病に罹り、対策として飼料に抗生物質を混 ぜて投与し、その結末として広大なエビ養殖地が放棄され、荒れるに任せたままになってしまうと容易に想像できます。

 

枯葉剤は30年経った今も、第二、第三世代に奇形をもった子どもを生み出していま す。そして性懲りもなく、次世代に難問を残す劣化ウラン弾などの兵器が使われ続けています。

今の南ベトナムのエビ養殖場ブームも、次の世代に環境問題を残すでしょう。

負の遺産と承知しつつ、なぜ人々は愚かなことを繰り返すのでしょうか。

 次の世代に何を残すか、そ れは我々の世代の責任です。東西イデオロギーの対立が崩壊して人々は指針を失い、あまりにも場当たりで経済優先の営みが横行しています。東側の雄であった ベトナムこそは独自の開発路線を歩むと思っていたのですが…。

 でも、エビの養殖場ブーム に危機感を持った人たちがマングローブの植樹活動を始めたという話にささやかな光明を感じています。

 鳥インフルエンザ、BSE (狂牛病)など、問題の根源は同じようなところにあると思います。

 

カ マウ岬でエビの鍋に舌鼓をうちエビ御殿を誉めそやしつつ、反面で傲慢なことを考えてしまう自分の優柔不断さも反省しています。


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