99年5月

独断と偏見のタイのフルーツ番付です。

<横綱: ドリアン>

ドリアンほどいろいろなエピソードを提供してくれる果物はありません。

堅く鋭いとげとげを持つ外殻、ねばりけのある果肉のまったりとした甘さ、そして饐えたような強烈な匂い、このアクの強い個性的なフルーツに一度病み付きになるともう止まらない、といいます。中国の隠語でドリアンは現地妻を意味します。「彼は故郷を離れて長く経つが、便り一本寄越さない。それほどドリアンは美味しいのか?」というような詩が詠まれるわけです。

ドリアンの収穫は危険な作業です。何せあのとげとげですから、樹上から熟れたドリアンが落下してくれば大怪我をします。実際に事故も起こっています。それと知らず、ドリアンの木の下で恋を囁き合うカップルでもいれば大変なことです。季節になれば「頭上注意」の看板が立てられ、収穫人は頭にヘルメット、長袖の分厚いシャツ、手には軍手の完全武装をしてドリアンに挑むのです。

ドリアンには当たりはずれがあります。値段にかなりのバラツキがあるのもこのためです。安いドリアンを見つけたと大喜びして、いざ食べてみると食に値しないものがあります。異常にネバネバしていて臭いだけで、甘みも何もないものです。また、固くパサパサで、味気の無いものもあります。こんなはずれドリアンに出会うと、努力しても口腔から喉の奥に通らず、吐き出してしまいます。表面を弾いて音をさせてスイカの品定めをするように、ドリアンは底部の匂いを嗅いで品定めします。適度な甘い芳香が決め手ですが、ドリアンになれているタイ人でさえ、ときどきハズレることがあるようです。ドリアンを扱うフルーツ屋台や国道に並ぶ現地直売の屋台で、客が長時間かけて品定めをしている光景に出会うのもそんな理由です。「ドリアンは美味しい」と云う表現ではなく「あのときあそこで食べたドリアンは美味しかった」「〇〇県のドリアンはハズレが少ない」という表現になるようです。 実は私はドリアン初体験でハズレたのと、ドリアンとアルコールとの食い合わせは体に良くないと聞いているので、ドリアンにそれほど触手が伸びません。初体験で極上の味に出会った人のエピソードを紹介します。

ドリアンはその強烈な匂いのために、ホテルへの持ち込みや飛行機へのチェックインを禁じているところが多くあります。ドリアンの虜になったADのO君は、日本へのおみやげにはこれに勝る物はないと、ドリアン数個を殻付きのまま何重にもビニールに包み、スーツケースに忍ばせてチェックインを済ませました。あとは成田の植物検疫をどうクリアーするかだな、と一安心しているところで場内アナウンスがありました。「東京行き〇〇便へ御搭乗のO様。空港インフォーメーション・カウンターまでお越しください」。インフォメーション・カウンターで航空会社職員から、他のお客様の迷惑になるのでドリアンは運べないとの説明を受け、しぶしぶ納得したO君だが、職員がドリアンを持ち去ろうとするのを見て、「そのドリアン、ここで食べてしまいます!」と思わず叫んでしまったのです。呆れ顔の職員とスタッフを尻目に、O君は一気に数個のドリアンを平らげてしまいました。現在O君は優秀なディレクターになっていますが、完全密封パックなる新兵器を導入してドリアンの果実を密かに運ぶ方法を見つけたようです。

山田五十鈴さんの娘で女優の嵯峨三智子さんを覚えておられますか?色香の漂う女優さんとして、ある年齢層以上の方にはファンも多いと思います。残念ながら嵯峨さんは数年前にタイでクモ膜下出血の発作を起こして亡くなられました。友人たちと観光旅行でバンコクに滞在中のことでした。嵯峨さんは倒れる直前にドリアンを食べ、ウイスキーの水割りを飲んでいたということです。広辞苑によれば、クモ膜下出血とは「脳軟膜血管が破れて脳脊髄腔内に出血する疾患。突然烈しい頭痛・嘔吐をもってはじまり、しばしば意識を失って倒れる」とあります。つまり、高血圧の緊急疾患なのです。ドリアンはカロリーが高く、血圧を上げる効果があります。臨床した医師によれば、暴食したドリアンとアルコールのチャンポンが嵯峨さんの体を過度な高血圧状況にして、クモ膜下出血に至ったのだろうということでした。鰻と梅干、タニシと蕎麦などの食い合わせがあるように、ドリアンとアルコールはタイの誰もが知っている食い合わせなのです。嵯峨さんにドリアンを勧めた友人グループに嫌疑がかかり、嵯峨さんに高額な保険が掛けられているとかいう奇妙な噂も飛び交ったものです。真相は闇の中です。亭主らに保険をかけてヒ素を飲ませたという林真須美容疑者ですが、ドリアンと晩酌の組み合わせは知っていたでしょうか?

<大関: マンゴスティン>

私にとって初体験のトラウマから抜けられないドリアンに比べ、マンゴスティンは文句無しに美味しいフルーツです。上品でとろけるような甘さと軽い酸味、フワフワとした口触り、あっさりした後味の良さは最高です。アルコールとの食い合わせも無いようで、高級クラブなどでは美人ホステスがマンゴスティンの実をフルーツ楊枝でひとつずつお客さんの口元に運び入れてくれて、満悦の表情を浮かべる御仁も多いようです。

「マンゴスティンを現地直送。フルーツの女王の味を日本の御家庭でどうぞ!宅配便でお届けします」といったパンフレットをタイでよく見かけます。タイの相場の10倍以上の値段がついているのですが、輸送賃や検疫の手間を考えるとリーズナブルかな、と納得して日本の知人や親戚にマンゴスティンを送る駐在員や旅行者がいます。10年ほど前には僅か一社しかなかったこの現地直送宅配便が十数社に増えているところを見るとかなり繁盛しているようです。しかし残念ながら日本で食べることのできるマンゴスティンは本当の味ではありません。そこにはカラクリがあります。お客さんからのオーダーを受けてひとつひとつタイから現地発送しているのではなく、マンゴスティンの旬の季節に大量に買いつけて貨物船いっぱいに積み込み、一度に日本へ運んでいるのです。日本で検疫を受けたマンゴスティンは冷凍倉庫に保管され、タイで注文があると日本の冷凍倉庫から宅配されるという仕組みです。

いちど冷凍されたマンゴスティンは、雪のように白くフワフワとした果肉の味わいをなくしてしまいます。色は褐色がかり、口触りもベトベトした感じになります。本来の味から半減してしまいます。冷凍倉庫から宅配されて最初の解凍時に食べる場合はまだマシですが、不在や何かで荷物が滞った場合は最悪です。色は黒ずみ、すっぱい匂いを放つようになります。こうなるともう食べられたシロモノではありません。カイワレ大根やイクラ、イカせんべいのような汚名をマンゴスティンに着せられるのではないか、とハラハラ、ドキドキです。こうしたマンゴスティンを「女王の味」と思わないで下さい。同じような輸送方法で宅配されるリンチーやランブータンは冷凍してもそれほど変質しないようですが、マンゴスティンだけはお勧めできません。やはり女王様はデリケートなのかもしれません。

<関脇: パパイヤ>

タイ料理は辛いことで有名ですが、食後にデザートを取って口の中を中和させるのが普通です。レストランの定食メニューで付き物なのが食後のフルーツ3点セットです。決まりごとのようにパイナップル、スイカ、パパイヤの3点がお皿にのっています。年中採れるということ、安価であること、脂っこい料理とのマッチングが良いこと、などが共通点です。パパイヤは少しアクのある匂いがするので、ライム(マナオ)を絞って匂いを中和して食べます。パパイヤには蛋白質分解酵素のパパインが多く含まれていますので、肉食などの後でコレステロールが気になる方にはオススメのデザートです。パイナップルの甘さで料理の辛さを殺し、スイカで喉をうるおし、パパイヤで健康に気を遣う。考えてみれば、理にかなった組み合わせなのです。

パパイヤで特筆すべきことは、タイ東北部(イサーン)の代表料理ともいえるソムタム(パパイヤ・サラダ)です。ソムタムは、青パパイヤを千切りにしたものをベースに、乾燥唐辛子(鷹の爪)、ニンニク、ピーナッツ、乾燥エビ、沢ガニなどを好みによってすり鉢に入れ、搗き棒でたたくようにして混ぜ合わせたサラダです。青パパイヤから出てくる甘い酸味汁が食べ物全体になじんで、絶妙の味わいをつくります。入れる具とその量を選べるので、辛さやニンニクに抵抗のある人はそのように注文すれば、あっさりとしたパパイヤ・サラダを食べることもできます。

ソムタムと蒸したモチ米の組み合わせは、イサーン農民の日常食です。日本のオミオツケと同じで、家庭ごと、作る人ごとに微妙に味が異なり、「美味いソムタムをつくる女房」は東北部出身男性が伴侶を探すときの必須条件です。夕方から夜にかけてバンコク中央駅前には百を数えるソムタム屋が所狭しと並びます。それらは例外なく女性です。そしてほとんどが厚化粧をしています。交される言葉はタイ東北弁。ソムタムはオフクロや女房の味ですから、視覚と味覚と聴覚に訴えて郷愁を誘い、客を引きつける作戦なのでしょうか。

ソムタムは東北部だけでなく、いまやタイ全土で市民権を得ています。「だんご三兄弟」ではありませんが、“パパヤー・ポクポク(青パパイヤを搗き棒で叩くときの擬音)”のフレーズが印象的なソムタムの唄が大ヒットを続けています。大々的にソムタム・コンテストも開かれるようになりました。材料の配分、青パパイヤの刻み方、すり鉢や搗き棒の素材(素焼きの陶器、大理石、サンショの木など)が「味」に反映するということで、競技者の創意工夫があるようです。また、在外タイ人がもっとも渇望しているタイ料理はソムタムである、というアンケート結果が出ています。材料の青パパイヤが外地では手に入らないからです。そこに目を付けたビジネスマンが、ソムタムの真空パックや缶詰を開発して輸出に乗り出した、という最近のニュースがあります。

パパイヤの語感も何ともいいものですね。パパイヤは欧米の隠語で女性の豊満なバストを意味します、とフルーツ名と語源、隠語(これは驚くほどたくさんあって面白い)について触れたかったのですが、「パパ嫌!」と言われそうなので止めます。

<東西小結: ココナッツ / バナナ>

ときどき南洋の小国がココナッツ・カントリー、バナナ・リパブリックという呼び方をされることがあります。やしの木以外に何も無い国、バナナが主要産物の貧しい国、といった蔑視の意味合いが含まれます。あなどるなかれ!ココナッツ。あなどるなかれ!バナナ。他に何も無くてもココナッツだけで全ての生活がまかなえる、あくせくと働かなくてもバナナがあれば飢えることはない、と切り返したいくらいです。このふたつのフルーツのバリエーションは驚くばかりなのです。例えばココナッツですが、ココナッツ・ジュース、やし油、ココナッツ・ミルク、乾燥果肉、お菓子、やし酒などいろいろな食べ方や加工方法があります。そして、果実の殻は食器、楽器、燃料などに利用され、やしの葉で屋根を葺いたり、繊維を取り出してロープや衣服を織ることもできます。バナナも然りです。そして、両者ともほとんど人の手を借りずに成育し、実をつけるのです。こんな有り難い植物はありません。集約労働をして農産物を作り、来たる冬の間の食糧を保存しなければすぐに飢えてしまう寒冷地の国の人々が、ココナッツ・カントリーやバナナ・リパブリックを羨むことはあっても、蔑むことはないはずです。寒冷地の国の人々が逆境ゆえに農業革命、産業革命、工業革命の必要に迫られ、本当は豊かだった南国よりも先に世界を席捲してしまったことが今日の南北問題なのです。

バンコクの名前の由来は、「ココナッツの村」という意味です。現チャクリー王朝がバンコクに都を置いてから、ココナッツの村では都らしくないと考えたのか、「クルンテープ・マハナコーン・ラッタナコーシン・…」と延々と続く世界一長い地名を付けました。したがってタイのほとんどの人はバンコクと呼ばずに、最初の語句だけをとって「クルンテープ(天使がすむ都の意)」と呼んでいます。高層ビルの建ち並ぶ現在のバンコクは、もはや「ココナッツの村」ではありません。しかし、いまだに外国人がバンコクと呼んでいることにタイの人は抵抗があるのか、と云うとそうでもないようです。その辺が、あくせくせずともココナッツやバナナで飢えずに生活できる環境が育てたメンタリティーなのでしょう。

ちょっと話が混乱してしまいました。喉が渇いたらコカコーラよりも果実まるごとのココナッツ・ジュースを飲み、小腹が空いたらハンバーガーよりも幾房もぶらさがったバナナを食べた方が、安くて得をした気分になることを書きたかっただけです。コカコーラやハンバーガーなどが無くても、ココナッツ・カントリーやバナナ・リパブリックは困らないのです。

<前頭: マンゴー>

ときどきタイの人のマッチング・センスには驚かされることがあります。例えば、アイスクリーム。日本で“雪見大福”などの奇抜なアイスクリームが出る以前から、タイにはそうしたマッチングがありました。街頭売りのパンとアイスクリームなどもポピュラーです。実際に食べてみると予想を裏切って、なかなかイケルのです。

さて、フルーツのマッチングで特筆すべきは、カオ・ニャオ・マムアンでしょう。熟れたマンゴーと蒸したもち米とココナッツ・ミルクの組み合わせです。どれもネットリとシツコク、口にからみついてくる感じがしてヘビーな組み合わせだと思うのですが、意外に美味しい。ただし、ついつい食べ過ぎて、お腹がもたれてココナッツ・ミルク味のゲップがでてくる羽目にならないように注意が必要です。

マンゴーは年中出回るフルーツですが、このカオ・ニャオ・マムアンに適するマンゴーの種類は限られていて、雨季の始まる今のシーズンしか食べることができません。奇抜に思えるマッチングですが、いろいろな試行錯誤の上で成立した組み合わせであるということが伺えます。

<前頭: パイナップル>

子供の頃に食べた記憶のあるパイナップルは、輪切りにしてシロップにつけた缶詰です。当時は贅沢品で、親にねだっても病気のときぐらいしか食べさせてもらえませんでした。お中元やお歳暮に贈られてきた缶詰セットのなかにパイナップルが入っていると大喜びしたものです。幼い頃の印象が強かったのか、修学旅行に行った九州で買ってきた御土産はパイナップルです。しかし、家に持ち帰り、はたと困ったのが皮の剥き方です。家族でパイナップルを眺めすがめて、躊躇することしきりです。それまで缶詰の輪切りしか知らない田舎者にとって、あのカサカサうろこにヒゲの生えた外皮はまったくの難物でした。結果は惨澹たるもので、切ったパイナップルの外周にたくさんのヒゲが残ってしまいました。そしてシロップに浸かった味に馴染んだ者にとって、本物のパイナップルは甘くありませんでした。その後は、パイナップルはやはり缶詰に限る、というようなことを人前で恥ずかしくもなく公言する始末でした。

パイナップルについていろいろ見えてきたのは、タイに来てからです。螺旋状に皮を削っていけば、ヒゲは効率良く取れることを屋台の切り売りで観察しました。シロップに浸かっていなくても、パイナップルはやはり甘いものであるということを知りました。かつて九州で買ったパイナップルは熟れていなかったことが、長い年月を経てようやく判ったのです。

役に立たない個人的な体験談を書いてしまいましたが、食べ物の印象や味の評価などは個々人の体験に基づくものです。グルメ番組で、いくら美味しい美味しいと声高に叫ばれても、美味しく思えない内容のものがときどきあります。それは見る物が自分の体験に照らし合わせて味を想像するからです。どのへんで最大公約数(みんなが必ず美味しそうと認めるライン)にするのか、どのへんで最小公倍数(隠れた珍味を紹介するのに、共感できる視聴者を増やせるライン)にするのか、難しいところですね。

<外国人力士: リンゴ>

フルーツ天国といえども、タイにないフルーツもあります。タイ人の飽くなき美食への欲求は、身近にこれだけたくさんの果物があっても、無い物ねだりで外国産の高価なフルーツを求めることがあるようです。特に外国産のリンゴ、ストロベリー、ぶどうなどは、タイ人に人気があります。それぞれタイでも生産し始めていますが、まだ輸入物の味には勝てないようです。輸入リンゴがひとつずつラップして、スーパーの陳列棚にうやうやしく並べられてあるのを見るとちょっと滑稽です。タイ人から見れば日本の果物屋さんにドリアンやマンゴスティンが貴重品のように飾られていることが滑稽に見えるでしょう。でも最近はクダモノの流通手段も便利になったとみえて、タイでもリンゴの値段が随分と下がりました。

リンゴの輸入元は中国が多いのですが、雲南あたりから大河メコンを河船で輸送されてきます。乾季はメコンの水量が足りず航行不能になりますが、雨季が落ち着いて船の運行が楽になる9〜10月頃にどっと中国産のリンゴが入ってきます。そのころにチェンセーンやチェンコーンの船着き場に行けば、クーリーたちがリンゴを背中に担いで荷降ろししている姿を見ることができます。今は収穫期が逆になる南半球のオーストラリア産のものが船便で入荷しています。

輸入リンゴに人気があるのなら、とタイ女性の気を引くためにリンゴを御土産に運んだ日本の友人がいます。その首尾は、まだ聞いていません。リンゴが希少価値を持っていた時代は過ぎ、値段は高めでもかなり流通していますので、リンゴにどれくらいの神通力が残っているのか、友人に確認したいと思っています。

<百聞は一食に如かず>

番付に名前を挙げたものを除いて、ぱっと思いつくだけでも両手の指で数えられないほどのフルーツの種類がタイの日常に溢れています。グアバ、竜眼、スターアップル、ザボン、オレンジ、ランブータン、サポジラ、釈迦頭、ロゼル、ジャックフルーツ、メロン、ジャワモモ、…。書き綴れば、きりがないので、このあたりで“格言”に逃げておきましょう。

「百聞は一食に如かず」

皆さん、タイに南国フルーツを食べに来て下さい。お待ちしています。