[PR]テレビ番組表
今夜の番組チェック

 
99年3月

タイの著作権事情

2月2日はタイの“発明の日”です。プミポン国王自らがある発明をされたことにちなんで指定された記念日です。この日は人々の発明を奨励する日であるとともに、知的所有権について啓蒙する日であると謳われています。警察の経済犯罪取締局が、ブランド品のコピー商品やコンピューター・ソフトの違法コピーを扱う業者を一斉摘発したり、著作権を無視してダビングされたビデオ、音楽テープを廃棄処分するパフォーマンスを繰り広げます。

近年になって設けられた“発明の日”は、アメリカの圧力によって生まれたといううがった見方をする人がいます。世界戦略の一環として知的財産権を国益に反映させたいアメリカにとって、“コピー天国・アジア”は許されざる存在です。タイに対してはスーパー301条をつきつけて、知的財産権保護に関する徹底的な圧力をかけました。タイ政府が知的財産権保護の取り組みを厳格にしない限り、二国間で不均衡商取引が行われていると認め、タイ製品の輸入を許可しないというのです。タイ政府は大国アメリカに刃向かうわけにはいかず、急遽、知的財産権の法制を整備しはじめました。“発明の日”はその過程で生まれたのです。山と積まれた違法コピー商品をブルドーザーで踏み潰し、焼却するパフォーマンスが欧米メディアを集めて行われるのも、タイ政府の苦肉の策なのです。

しかし今もコピー商品は巷に氾濫しています。ではどんな著作権侵害、意匠登録違反があるのか、具体例をもとにご紹介しましょう。

<ロレックス・セイコー?>

ご存知スイスの老舗ロレックスの時計は、紳士の高級ステータス・シンボルであります。ロレックス・ブランドは東南アジアでも絶大な人気を持っています。それにはインドシナ戦争が深く関係しています。戦争というのは人間を残酷非情にします。戦争の犠牲になった人たちの遺体から、身に付けているものを略奪し、市場に流すことが日常茶飯に行われていました。略奪者たちが最初に目を付けるのは金銀・宝石類で、次に時計、そして衣服の順番になるようです。そして、略奪品の中でもっとも高価に取り引きされた商品のひとつがロレックスだというのです。持ち主がすでに息絶えていてもロレックスだけが刻々と時をきざんでいる様子を想像するだけでゾ〜っとします。いまでもホーチミン・シティーの土産物屋や骨董品屋に行くと、兵士の名前が刻まれたジッポーライター、認識証などとともにロレックスの中古時計が物々しく並べてあります(もはや本物の遺留品は少なく、遺留品を模したコピーが多いようです)。かくして時計ならロレックスと呼ばれるようになったのですが、高いロレックスを誰もが持てるわけがありません。そこでコピーが大量発生することになりました。

ロレックスのコピーにもランクがあります。一目で贋物とわかるものから限りなく本物に近いコピーまでさまざまです。本物のロレックスはクォーツを使用しておらずにセイコー・ファイブ同様に自動巻きです。したがって電池は使わず、秒針は一秒ずつ時を刻むのではなく、流れるように進みます。時計を振ると中の自動巻きゼンマイがグッル、グッルとまわる音がします。この条件を具えているのが本物に近いコピーです。日本ではとっくの昔に生産中止しているセイコー・ファイブですが、アジアでは今だに根強い人気があり、生産を続けている工場があります。このセイコーファイブの部品をベースにロレックスの外観を模造したタイプのものが台湾や香港あたりで作られ、もっとも精巧なロレックス・コピーとして出回っているようです。

“悪貨は良貨を駆逐する”と言いますが、本物と寸分違わぬコピーが出現し氾濫するに及んで、激怒したのがスイスのロレックス本社です。アジア各国に意匠登録違反を摘発する駐在員オフィスを開き、本物と贋物の診断カウンターを設け、贋物撲滅のために目を光らせています。駐在員たちに逮捕権、没収権などはありませんので、贋物を見つけると知的財産局や経済犯罪取締局に報告して、摘発を促すように働きかけています。ルイ・ヴィトン、グッチ、シャネル、…などのヨーロッパ系ブランドは、いずれも同じような経緯でタイに支店を設けています。ヨーロッパ系ブランドはプライドがあるためか、現地生産ライセンスを簡単に与えずに、あくまでも本国生産を基本にしているようです。それに比べ、ナイキ、カルバン・クラインなどのアメリカンブランドや日系ブランドは、現地生産ライセンスを与え、現地工場を持っているケースが多く、模造品と本物の混乱がより複雑です。

<ナイキの内規は?>

随分昔の話で、日本のワコールがタイに生産工場を作ったときのことです。当時タイに出回っていた女性下着というのはゴワゴワのものが多く、ワコールの進出は高級下着の登場として、タイ女性の話題を集めたようです。通常、生産工場では何パーセントかの不良品が発生し、工程の中の検査ではねられるようになっています。この検品落ち製品が、市場に流れたことがあります。ワコールとしては高級ブランド・イメージを損なう由々しきことであるとして工員を集めて訓諭し、目の前で検品落ち製品に火を付けて、絶対に工場から流出することのないように社員に厳命しました。焼かれた製品は少々の傷やストッキングの伝染に頓着しなければ、十分に使用に堪えるものであり、女性工員たちは恨めしそうに灰塵と化す下着を見つめていた、ということです。こうした内規の統制努力にもかかわらず、ワコールの検品落ち製品が市場から消えることはありませんでした。また、工場が現地にあるために本物の素材が流出し、デザインや商標をまねた品物も出回るようになりました。かくして、本物、本物のハンパ物、本物と同じニセモノ、名前だけワコールを偽ったニセモノ、ワコールとそっくりそのままだけど別名商品、…というふうにいろいろなワコールが女性の身を包むことになりました。

いまワコールと同じような経緯を辿って、ナイキ製品がタイの巷に氾濫しています。マイケル・ジョーダンやタイガー・ウッズなどスーパースターでおなじみの人気グッズであり、女性下着と違って外に見えるものだけに混乱の度合いも大きいものがあります。検品落ち製品がナイキ・ショップの前の路上に並べて売られていたり、かかとのデザインのアラビック文字がイスラム教を冒涜するものであるとクレームが入り発売中止になったバスケットシューズも見かけます。また、同じ本物でも韓国やインドネシアなどにも工場があって、それぞれにクオリティーが微妙に違います。そしてそれぞれの国のハンパ物やコピー品も流通しています。もはや何がオリジナルで正統製品か分からない状態です。ナイキの内規はどうなっているのでしょうか?

<法の抜け道?エセ・ブランド>

情報の少ない田舎のお人好しな農民くらいしかだませないと思うのですが、似非ブランド品が横行しています。似非ブランドというのは例えば、Sony→Sany、Panasonic→Panasanic、Toyota→Toyoto、Honda→Hondo、Hitachi→Hitochi、Nikon→Nicon、Adidas→Adidos、…というヤツです。冗談のようですが、本当にこうした名前の商品が市場にならんでいます。同じ名前を語らない限り商標登録違反ではないのかもしれませんが、ロゴデザインまでほぼ一緒ですから、うっかり見逃すとAdidosのTシャツを買ってしまったことに後から気がつくかもしれません。実は不覚にも私は友人から指摘されてはじめて、自分の着ていたシャツがAdidosであることを知りました。こうした商品がでてきたということは、コピー商品をつくる側に知的財産権などの知識が広まってきたということの証左です。タイ政府の知的財産権啓蒙活動は身を結んでいます!?

<プロゴルファー猿は左利き?>

タイでは日本の漫画が大人気です。どらえもん、ドラゴンボール、クレヨンしんちゃん、…、など路端の売店にならぶおなじみのキャラクターの漫画単行本は、一冊15バーツ(50円ほど)。これも著作権をクリアーしてあるものとないもの、いろいろです。いずれの場合も大学の日本語学科の生徒たちが漫画の吹き出し部分の翻訳を手がけ、日本での発売数日後にはタイ版が発行されるネットワークができています。タイの英字紙The Nationは漫画キャラクターの著作権がビジネスになると考え、いち早く“どらえもん”や“しんちゃん”、ディズニーのキャラクターのタイでの使用権の代理業務契約を著作権者と結んでいます。The Nation本社ビル内の漫画キャラクター著作権を扱う部署には、違法コピーのサンプルも集められています。違法サンプルのなかで面白いのは、ポスターや漫画表紙など。色刷りのコピーのほとんどは写真の接写などから製本するケースが多く、その工程で反転してしまうようです。その結果、右左が逆になった漫画が登場します。漫画そのものは左右が逆転してもあまりわからないのですが、画面の端にある(C)藤子不二夫プロなどの文字が反転していて、これは違法コピーであることに気づくわけです。タイの本屋さんに並ぶ漫画本の表紙のなかで、プロゴルファー猿がサウスポーでスイングしていればその漫画は違法コピーに間違いありません。

<数えればきりがないが…>

音楽テープ、ビデオ、薬品、漫画、衣類雑貨などのブランド、時計、電気製品、コンピューター・ソフト、ゴルフクラブ、商店名とロゴ(例:丸井)、…。タイのコピーをあげつらえば、まったくきりがありません。もともと知的財産権という考え方そのものがタイにはなく、模倣して何が悪いの?と、タイ人からきり返されそうです。パロディーとして笑って済ませる人もいます。元へ。知的財産権という考え方そのものは近代のもので、日本も欧米の電化製品や自動車、カメラなどの模造品をセッセと作ることで技術力を高めてきた時代がありました。われわれの携わるテレビ番組でも例えば「どっきりカメラ」などはまさしくアメリカの番組の“パクリ”でした。そしていまも“パクリ”は横行しています。どこまでが知的財産権の侵害なのか意見の分かれるところですが、模倣なくして人類の発展はありえませんでした。近代になって模倣が有料なのか無料なのかといった権利主張がうまれて話がややこしくなってきたのです。模倣するためには、オリジナルに負けぬ知識と技術が必要です。タイにこれだけのコピーが氾濫するということは、タイには相当の技術力が育っているということです。その力はすでにオリジナルを凌駕するだけのものを持っていると思います。すでに獲得した知的財産権にあぐらをかいている欧米、日本などをタイが追い越すことを期待しています。