
イラクでの国連による大
量破壊兵器査察の進行を無視する形で行われた米英によるイラク攻撃など、アメリカ一極集中化に対するバランス・シートとしての国連の存在意義を危ぶんでい
たところです。自衛隊の海外派遣についても「国連平和維持活動」に基づくという前提だったはずが、いつのまにか反古にされて「日米同盟」に基づいてイラク特措法ができてしまいました。こんな挿げ替えが容易に許されるほどに国連は威信をなくし、日本政府はアメリカの
威力に一辺倒です。国連は「世界平和」を第一義として作られた機関です。どんな改革報告書が各メンバーから出され、それが実行力のあるものになるのかどう
か注目しています。
実は最近、国連からお仕事をいただきました。国連アジア太平洋州経済協力機構(UNESCAP)のスリランカ、
インドネシア、パキスタン、タイでの貧困対策プロジェクト推移の映像記録を撮るという仕事で
す。
お仕事をいただいていて国連内部のことを批評がましく書くのは憚られますが、これ
も「国連改革」の一助になると思って、私の経験を書きます。そんなこと一助になるわけがない、おまえの愚痴だとお叱りを受けそうですが…。
この仕事を世話してくれた国連で働く友人が口癖のように呟く言葉があります。
「ここはUnited
Nations(国家連合)ではない、United Bureaucrats(官僚連合)だ」
今回、この言葉の意味が実感をともなって分かりました。事務手続きはヒツコイほど
に抜かりなく、わずか一ヶ月の映像コンサルタント臨時契約(記録が纏まるまで、契約をそのつど更新してゆく)に国連指定の履歴書、健康診断書を提出しま
す。まあ、それは当たり前かもしれませんが、国連指定の履歴書には、学歴、職歴、犯罪歴の他に、語学のスキル、一分間に何文字のタイプが打てるか、親戚縁
者に国連勤務者はいるか、各国行政機関での就労経験はあるかなどの記入項目があります。親戚縁者に国連勤務者がいれば就業を優遇してもらえるのなら、それ
はコネ就職ではないか、と思ってしまいます。良くも悪くも日本の映像界の口約束・どんぶり勘定の世界にたっぷりと浸ってきた私は、撮影に入る前のこの事務
手続きにうんざりしてしまいます。適当に書いておけば良いと思われるかもしれませんが、卒業した学校や仕事をした制作会社に問い合わせのFAXが送られていたことを後で知り、ゾっとしています。FAX番号は事務職員がインターネット検索で調べたといいます。怖
るべし、官僚連合!
ところが官僚の集合体ゆえに、政治的な発言や行動に抑制(見ざる、聞かざる、言わ
ざる態度)が働いて、信じられないことが公然と起こってしまうことがあります。
例えば、こんなことがありました。
この秋に、HIV関連の国連会議がバンコクで開かれたときのことです。メーン・ゲ
ストは深刻なHIV問題を抱えるアフリカの某国大統領です。ゲストですから、その随行員を含めた渡航費、宿泊費、食費など、すべて国連が賄います。また当
国のHIV問題対策に国連は多大な援助をしています。ところが、大統領はHIV会議出席もそこそこに、攻撃用ヘリ購入の商談のためにタイ空軍基地を訪れま
した。医療、教育などの基本的な社会問題は国連の援助に任せて、敵対勢力を打ち負かし政権維持をするために国家財産を使う大統領のことを、国連職員や会議
出席者は黙認しています。こういう明らかな矛盾に官僚機構というのは対処できないようです。
短い期間に私が関わった仕事の中でさえ、こんなスキャンダラスなことがいくつかあ
りました。
ここでは具体的に書けませんが、貧困対策のはずが、ある国の某プロジェクトなんかは一大私企業
の環境整備のためのプロジェクトであるとしか思えないものが国連の援助で行われています。その企業と国連の癒着を類推できます。プロジェクトそのものは立
派ですが、それは国連のお金を使わなくてもその企業自身がやるべきことだし、それができる大企業です。
国連の運営は各国の分担金で賄われています。その他にプロジェクト毎にスポンサー
がついたりします。私が記録を撮っているプロジェクトはオランダ政府がスポンサーになっています。世界的な経済不況の中で、スポンサーのチェックも厳しく
なってきました。国連職員はほとんどがプロジェクト毎の短期契約ですから、プロジェクトがうまくいっていることをスポンサーや国連内部にアピールできない
と高給身分保障の職を失うことになります。ですから、各プロジェクトに占める広報予算というのはかなりの額に上ります。私はその恩恵を受けています。矛盾
に気づきながらも、私の記録は宣伝臭が漂うものになってしまうでしょう。そういう契約書にサインしています。というふうに官僚機構に取り込まれてゆく嫌悪
感に苛まれています。これは俄かスタッフの私に限ったことではなく、今回お会いした何人かの国連スタッフも同様に官僚機構には辟易しているが殻を破れない
というジレンマを感じているようでした。彼らひとりひとりは「世界平和」の理想に燃えた優秀な人たちです。
さて、国連改革。
通りすがりの私でさえ感じるいろいろな矛盾点の改革の術はあるのでしょうか。「国
連改革の道を探る諮問委員会」というネーミングがいみじくも表現しているように、「改革の道を探る」ことから始めないといけないほどに迷路に入り込んでい
るのが実情だと思います。
アメリカ主導の戦後民主主義教育を受けた私は、アメリカといえば「自由、平等、民
主主義」の国ということを叩き込まれましたが、どうもそうでないことが分かってきました。「世界平和、正義」の国際連合には裏切って欲しくないと切に願っ
ています。
でも、私自身のこんないい加減な国連への関わり方が罷り通っているのだから、あく
までも幻想に過ぎないのかもしれませんが…。
(MK)