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今夜の番組チェック
I 「同時代に生きているということ」
1月3日。シンガポール。
ミラー越しにタクシードライバーがこちらの様子を窺っている。
目撃してきたプーケットの惨状やこれから向かうスマトラ島アチェの情報交換をする私と韓国人ジャーナリストJMの話が途切れ、お互いにふ〜っとため息を
ついた後、ウインドウ越しに流れる青い海の情景にやるせない気分を紛らわせた。しかし、そのエメラルドの海と白い波打ち際がプーケットの残像と結びつい
て、思わず雁首を元に戻したときに、バックミラーを通してドライバーと目線が合った。
「あなたたちはアチェに行くんですか」
シンガポール訛りの英語、シングリッシュではない。
なつかしい響きの訛り、抑揚なく単語をつなげたあとで文末に音程があがる。
ああ、ビルマの人だ。
次々と津波被害の拡大が報告されているインド洋沿岸国のなかでビルマの被害状況はまったく見えていない。ビルマ軍事政権が発表する被害は、数字が桁違い
じゃないかと誰もが思うくらいに少ない。また、タイのアンダマン海沿岸部には数万のビルマ人就労者がいるが、彼らの犠牲もかなりの数にのぼるはずである。
こんな比喩はしたくないが、タイで犠牲になった人たちのうち外国人旅行者が日なたの存在だとしたら、彼らは日陰の存在である。タイのビルマ人被災者たちに
とっては、母国からの身元照会も、タイ政府の手厚い加護も、あまり期待できない。
故あってビルマを脱出しシンガポールでドライバーをしている彼が故国の縁故者の安否に無関心でいられるはずがない。私たちから少しでもビルマ関係の被害
状況を聞き出そうと、運転しながら耳をそばだてていたという。
「ビルマ人はゲンを担ぐのがとっても好きです。
迷信も真にうけて信じます。
一般の人だけでなく軍事政権のトップに居座る人たちも同じです。
軍事政権内の権力争いでキンニュン首相が失墜し、ソーウィン新首相になりました。その直後に大災害を受けて、“天罰が下された、新体制は永く続かない”
と巷間に風評が駆け巡ることを軍政幹部は恐れています。軍政トップは大慌てでしょう。仏様の前で一心不乱に手をあわせていることでしょう。“隣国のタ
イやインドは被害甚大でもビルマは現体制ゆえに仏加護を得て安泰である”と現実を無視して自分の気を落ち着かせ、その上で人々を欺くために被害は少ないと
言い張っているのです。欺瞞です。」
穏やかに話しながらも、ミラーに映る目が憤怒に燃えている。
それぞれにとっての“Tsunami”。
それは直接に被災した人たちだけでなく、“Tsunami”というエポック・メーキングな災害や事件・事故が起こったとき、自分は何処にいて、何をして
いて、どう考
えたのか、というそれぞれの想いが交錯する。
エポック・メーキングな出来事、それは例えば“911”であり、“阪神大震災”であり、・・・
“Kobe”のとき、僕はアウンサン・スーチーさんの家の前に居た。
“911”のとき、僕はフィリピンのマニラ大学の学生ドミトリーに居た。
・・・ ・・・ ・・・
同時代に生きているということは、そういうことなんだ。
出来事の核心部にいなくとも、時間を共に刻み、空間を共有しているから、出来事に想いを馳せることができる。
ビルマ人のドライバーが、直接に災害に遭っていなくても憤怒することに、想いを共にできる。吉本隆明氏は「共同幻想」と表現したが、「共同の痛み」を感
じ、伝えるために僕は今アチェへ向かっているんだと自分に言い聞かせる。そして、アチェの次に行くべき場所はビルマかもしれない、と想いを巡らせてしま
う。
シンガポールからスマトラ島メダンへの航空便が全て満席で足止めを喰っている間に、プーケットで歩き見て聞いたことなどを整理してこれから行くアチェや
他の被
災地へ想いを馳せる。
(続く)
